大河ドラマ「べらぼう」の第3話で「一目千本(ひとめせんぼん)」が出てきます。
主人公の蔦屋重三郎が版元として初めて出版した本です。
どのような内容の本なのか、詳しく紹介します。
1.「一目千本(ひとめせんぼん)」はどういう本なの?
「一目千本」は、1774年(安永3年)に蔦屋重三郎が版元として初めて自主制作、出版した吉原遊郭のガイドブックです。
この本の内容・特徴は…
・遊女を花に見立てた表現
吉原の遊女たちを様々な花に例えて紹介しています。
・豪華な構成
上下2巻、70ページで構成された、携帯しやすいサイズの本です。
・北尾重政の挿絵
当時の人気絵師である北尾重政が手掛けた、美しい挿絵が特徴の豪華な本です。
・遊女の個性を表現
遊女の性格や特徴を花の種類に反映させて描写しています。
例えば、気が強い遊女は牡丹、おしとやかな遊女は桔梗として描かれています。
・季節感を表現
上巻には春夏のいけばなが58図、下巻には秋冬の62図が掲載されており、四季の移ろいを表現しています。
また、錦絵の技術を活かし、色彩豊かで華やかな表現がされています。
・相撲の趣向
東西に分けた花の出来栄えを相撲の取り組みに見立てる趣向があり、冒頭には土俵と樽一杯の花が描かれた見開き図があります。
・限定販売
一般販売されず、一流の妓楼でのみ入手可能な特別な本でした。
この「一目千本」は、吉原の復興と宣伝を目的として制作され、遊女たちの魅力を最大限に伝える特別な本となりました。
そして、単なるガイドブックを超えて、江戸文化の粋を集めた芸術作品としても評価されることになりました。
「一目千本」の挿絵をデザインした立役者・北尾重政はどんな人?
「一目千本」の挿絵は、北尾重政によって描かれたものです。
北尾重政は、江戸時代の浮世絵師として多くの作品を残しました。
・北尾重政とは?
繊細なタッチで「一目千本」の挿絵を描きました。
当時人気の絵師です。
・代表作品
・絵本作品
『絵本吾妻花』(1768年)
『絵本三家栄種』(1771年)
『絵本深みどり』(1766年)
・黄表紙(大人向けの絵物語)
『時花兮鶸茶曾我』(1780年)
・美人画
『青楼美人合姿鏡』(1776年、勝川春章との合作)
・その他浮世絵作品
『見立菊慈童』
『栄花小謡千年緑』
・その他
北尾重政は役者絵、美人画、武将・武者絵、風俗画、風刺画など、幅広いジャンルの浮世絵を手がけました。
特に黄表紙の作画は100作品以上に及び、多作な絵師として知られています。
また、北尾重政は「錦絵」(多版多色刷りの木版画)も制作しましたが、主に絵本や挿絵などの作品が多く残されています。
これらの作品は、北尾重政の幅広い表現力と技術を示すものであり、江戸時代の浮世絵芸術の発展に大きく貢献しました。
北尾重政が関わった書物については、愛知県「西尾市岩瀬文庫」で閲覧することができます。
大河ドラマの中でも紹介されました。
西尾市岩瀬文庫 公式HP→https://iwasebunko.jp/
2.「一目千本」が江戸時代の文化に与えた影響とは?
「一目千本」は今までにない表現の仕方で、とても評判になりました。
さて、どのような影響を与えたのでしょうか。
1.遊郭文化と浮世絵の融合
「一目千本」は遊女評判記としての機能を持ちながら、美しい浮世絵作品としても楽しめるものでした。
これにより、吉原を題材にした美人画がさらに人気を集めることになりました。
2.浮世絵師と出版社の関係強化
それまでの浮世絵は単独の絵師が作品を生み出すことが多かったですが、「一目千本」の成功後、蔦屋重三郎のような出版社が浮世絵師とタッグを組む形が主流になりました。
3.新しい表現方法の先駆け
遊女を花に見立てて個性を紹介するという凝った作りは、現代で言う”擬人化”の先駆けとなりました。これは日本文化に大きな影響を与えた画期的な表現方法でした。
4.知的エンターテインメントの普及
「一目千本」は単なる遊郭案内ではなく、芸術作品としての価値を持つ一冊となりました。
それにより、江戸っ子たちの間で教養を身につけ、「粋」な遊び方を楽しむ文化が広まりました。
5.出版界への影響
蔦屋重三郎のプロデュース力が開花し、その後、鳥居清長、喜多川歌麿、東洲斎写楽といった絵師たちを世に送り出すきっかけとなりました。
これらの影響により、「一目千本」の出版は江戸文化のターニングポイントとなり、浮世絵や出版文化の発展に大きく寄与しました。
3.「一目千本」の実物を見れる場所は?
「一目千本」は江戸時代に出版された本ですが、実際に見ることができます。
・大阪大学付属図書館が所蔵
大阪大学付属図書館 公式HP→https://www.library.osaka-u.ac.jp/
・国書データベースでデジタル版を閲覧
国書データベース 公式HP→https://kokusho.nijl.ac.jp/
まとめ
「一目千本」は、吉原の復興と宣伝を目的として制作され、遊女たちの魅力を最大限に伝える特別な本です。
また、この本の出版によって、多くの浮世絵師が活躍したり出版文化が発達したりしました。
大阪大学付属図書館や国書データベースで「一目千本」を閲覧することができます。